舌の表面の白いものが気になる方へ。毎日舌をこする必要はありません。なぜなら舌表面の細胞そのものだから、ヤスリで体を削っているようなものですよ。舌苔について解説します。2021年11月16日のNHKあさイチで舌磨きが推奨されていました。この番組で気付いた点も説明します。
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舌苔は舌の細胞(糸状乳頭)からできた角化上皮。つまり皮膚でいえば垢。
舌の細胞≒皮膚の細胞
舌苔⇒皮膚なら垢、頭皮ならフケと同じ
皮膚や舌では、深部から表面に向かって細胞が成長していきます。これを角化といいます。
成長した表面の細胞は、栄養不足となって死にます。
それが剝がれずに残っているものが、舌苔です。皮膚なら垢と呼ばれ、頭皮ならフケと呼ばれます。
何で細胞が成長したのに死んでしまうのかしら
細胞増殖に必要な栄養と酸素は、深部の血管から血管のない表面に向かって広がります。
深部の細胞は、栄養血管の最も近くにあるので、ほとんどの栄養と酸素を受け取っています。そして細胞分裂を行いながら表面に向かって角化していきます。
新しい角化した細胞は表面にあり、深部の血管から離れるので、細胞まで届く栄養が減ります。このため表面にある角化細胞が栄養不足となって死にます。
最終的に表面の角化細胞は剥がれ落ちてしまします。この剥がれ落ちた角化した細胞は、皮膚であれば垢といい、頭皮であればフケと呼ばれます。
舌の場合は舌苔といわれます。つまり表面の角化細胞の剥がれる寸前のモノが舌苔なのです。
舌に存在する4種類の細胞のうち角化して剥がれ落ちるものは糸状乳頭といい、舌の背部に存在しています
なるほど。だから舌の真ん中が白くなるのか
健常の成人60名の舌の表面をマイクロスコープによって観察した結果が(参考文献)あります。
これによれば角化層の厚みがあると、舌苔が厚く黄色になる傾向が分かっています。
舌苔は食事の食べカスであるとも言われますが、間違いです。
前日夕食後に歯を磨いて、翌朝に舌の表面を観察した先の60名の報告では、舌苔には食べ物のカスはついていませんでした。
- 舌苔⇒⇒⇒剝がれ落ちる寸前の細胞
-
①厚みに応じて、白色から黄色になる ②舌苔に食べカスはついていない
口臭は舌苔の付着量(舌の白さ)と関係なく、舌苔に付着する細菌の量と関係する
大学病院の口臭専門外来を受診した、全身の病気がない110名の報告があります。
明らかに口臭を認める人の舌苔を調べると、厚い舌苔を持っていた人は3割程度でした。
たしかに舌苔の付着量が多くなると、口臭が強くなる傾向はありました。しかし口臭を認めない人でも舌苔を持っている人の割合は4割いました。明らかに口臭を認める人でも、薄い舌苔の人は15%もいました。
舌苔=口臭の原因とは、はっきり言えないのです。
舌苔の量と口臭の有無は、法則がなかったわけね
じゃあ口臭の原因って一体??
口臭は、舌苔そのものが問題ではありません。舌苔の隙間の細菌が問題となります。
先ほどの110名の報告では、電子顕微鏡で舌苔表面のでこぼこ(角化上皮)を観察すると、隙間に細菌層を作っていることがわかっています。
舌苔によって、細菌層がある場合と角化上皮のみの場合など様々に異なっていました。
舌苔が口臭の原因ではなく、舌苔内の細菌から臭いが発生する場合が考えられます。
舌ブラシで舌苔を削ることは、正常な舌を傷つけるから厳禁
舌ブラシで口臭を抑える報告は実は多くはありません。大学病院での舌みがきによる口臭抑制効果についての報告を紹介します。
学生や職員を含む110名を調べています。そのうち23名に舌苔が付着していました。
舌みがきを一ヶ月続けた結果、2名で舌苔は取れませんでしたが、21名で舌苔が減りました。
歯科衛生士2名が口腔内の匂いをかぎ取り数値で判定した口臭については、舌磨き後に16名が改善を認めています。
舌の表面の 細菌の付着する場である舌苔を削ることにより、細菌が減り口臭が減ったと考えられます。
舌を磨くと細菌が付きづらくなるから、口臭が減ったんだね
なら舌みがきを一生懸命すれば良さそうだけど・・・
ただし舌苔はもともと舌をコーティングするためのもので必要不可欠なものです。
清掃しても取れなかった人もいます。その清掃してもとれない舌苔は剥がれ落ちていない舌細胞そのものであったと思われます。
舌苔が取れないのは、舌の細胞そのものだから
取れて喜んだ人もいるけど、削りすぎでヒリヒリの人も
さらに舌苔付着の23名には、舌掃除のアンケートもされています。
舌苔が取れたと感じた人は11名でしたが、一方で舌がヒリヒリすると言った人が3名、吐きっぽくなると言った人が10名いました。
実際のところ以下の報告では、舌をこすっても舌苔が取れないものがほとんどでした。舌苔は、舌の細胞そのもので舌に必要なものですから当然のことです。
大学病院の口腔外科に一般歯科診療を目的として来院した患者の舌表面を調べた研究です。
昭和53年の研究でやや古いのですが、3年間の患者の中から無作為に4861名抽出しています。
舌苔を認めた人は82例、1.69%でした。このうち、こすって簡単に舌苔がとれたのは、わずか3名でした。
大多数の者が擦ってもなかなか取れないというものでした。
2021年11月16日のNHKあさイチ で舌みがきが紹介されていた。
舌磨きは奥から前に磨くと良いとのことでした。
ここでは強調されていませんでしたが磨くのは舌専用のブラシで、奥から手前に優しく1回舌表面をなぞり、都度うがいすると紹介されています。
このなぞる作業を行うのは3回だけです。しかも一日に1度。
舌みがきというより、舌表面をふきとるというイメージですね。
舌表面の汚れは、食事をしていれば自然に取れている。つまり残っている舌苔は必要なもの
舌苔のある人とない人で、プラークや歯石の付着の有無で、口の中の清掃を行っているかどうかを確認すると、口の清掃程度と舌苔付着度は関係ありませんでした。
歯磨きとか口の中のケアの量と舌苔の量は関係ない
細菌自体はもちろん、舌苔が少なければ、舌苔に存在しづらくなります。しかし、舌の表面に潤いをもち、唾液が分泌され、舌表面をキレイにする方がより細菌減少に有用だと思われます。
舌の潤い、唾液、そして食事の行為自体が、余分な舌苔と、口臭を減らす
舌表面をキレイにするためには、柔らかいものではなく硬い食物をよく噛んで、ベロの表面が適度に食物で刺激されること、唾液を多く分泌して舌表面をキレイにすること、つまり食べるという行為自体が重要になります。
舌苔で問題になるのは、舌の奥についているもの
舌の奥に付着している舌苔が口臭の原因になりえます。舌を目いっぱいに前に出してかろうじて見える奥の部分です。この部分は、食事をしていても自然にはがれにくいものです。ココに厚い舌苔がつくと、細菌が繁殖して、口臭の原因になり得ます。
この場所を取るには、専用のブラシや固めのスプーンのようなもので、磨くというより舌を掻くのがよいと思います。舌の上の古くなって、汚染した唾液やカスのみをかき出し除去するのです。
洗顔と同じように考えましょう。舌の表面を歯ブラシでゴシゴシみがくことは、たわしで顔面を洗っているようなものです。舌の表面は顔の皮膚より繊細にできているのです。いまでは顔面もゴシゴシタオルでこすることも厳禁と言われています。
舌の表面も同じように、1から2回程度掻く。特に鏡で見ても見えないくらい奥のほうだけをお掃除しましょう。そうすれば口臭が減るはずです。
胃腸の悪い人は舌苔が厚い
食事に影響を及ぼすかもしれない消化器疾患の人には舌苔が付着しやすいと言われています。
先に示した報告では、内科受診中、または上部消化管内視鏡検査にて診断の確定している、消化器疾患のある患者さん325例の口の中の状態も確認しています。
173例53.8%で舌苔が付着していて、消化器疾患の無い場合より舌苔の付着率が高くなっています。
食欲不振や気持ち悪さなどの消化器の自覚症状を訴えた人では、舌苔の付着率が54-71%でした。一方自覚症状のなかった人では、舌苔付着率は39.1%と低値でした。
胃腸の調子が悪い人は舌苔がたくさん付いていたのか。舌苔は胃腸のバロメーターなのね。
消化器症状のある場合、通常食の摂取量が落ちたり、柔らかいものを食べたりすることによって、舌苔が付きやすいのかもしれません。
もしくは、消化器疾患に対して薬を飲むことが多くなり、唾液分泌が少なくなったり、抗菌薬による口の中の細菌組成が変わることなどで舌苔が剝がれにくくなるのかもしれません。
まとめ:舌苔はあっても良いから舌に潤いを
介護されている高齢者のように、柔らかい食事を取っているか、自分で食事を積極的にとれない人、自分で歯がきれいに磨けない人については、口腔ケアの一環として上顎から舌まで拭うように掃除をするべきだと思います。
しかしながら、生活が自立していて、なんでも食事が取れる人は、歯磨きだけで十分であり、積極的に舌をブラシなどで掃除をする必要はないと考えます。
舌全体がヒリヒリすると言って当院を受診される患者さんは多いです。以下の記事にまとめています。
そのような患者さんは、パッと見ると舌自体が真っ赤になっていて、舌苔もなくむしろ舌表面の潤いがないと感じることが多いです。
舌を磨くことをしていませんか?
舌が白いのが気になって、舌を一生懸命みがいています。
1日1回くらいですけど毎日してます。
舌みがきをやめてもらうと2週間から1ヶ月で舌がひりひりするという症状が良くなる人が多いです。
舌苔はあってはいけないものという思い込みから解放されましょう。歯磨き後のうがいだけで十分舌の表面はキレイになると思います。
コメント
コメント一覧 (1件)
「舌苔 取れない」で検索して、この記事にたどり着きました。
参考文献のリンクもあり、素晴らしい記事だと思いました。
厚い舌苔はあるのに、細菌が多くなくて口臭がしない人は、いったい何が違うのだろうと考えてみました。
鼻炎の問題もあるかと思い、次のような仮説を考えてみました。
①鼻炎の人は後鼻漏で鼻水が舌の後ろのほうにいつも垂れてくる
↓
②舌苔の表面に流れてきた鼻水はねばねばしているため唾液でも流れにくい
↓
③そこに嫌気性の細菌が増えてしまう