お年寄りの難聴は補聴器しかないのかな。他に良い方法についてお話しします。
なぜ年を取ると難聴になるの?
難聴を来す病態は色々あります。耳鼻咽喉科医としては手術で治る鼓膜周辺が原因による伝音性難聴に注目が行きますが、現実として多いのは耳の奥、聴こえの神経に関与する内耳から中枢が障害される感音性難聴がほとんどです。そのうち多くは加齢による自然発生してくる難聴です。皆さんの理解されているように加齢性難聴は治すことができませんが、メカニズムを知ることで対応できることが多々ありますので、それを御紹介していきたいと思います。
70歳代の半分は補聴器が必要
加齢性難聴は一般的に60歳以降に出現します。75歳以上では聴力正常の人は3割のみです。75%程度は検診にて精査必要となり、半分の人は補聴器が必要な中等度難聴以上となります。加齢性難聴は、加齢遺伝子の要因というよりは、動脈硬化などで内耳(音の振動を電気信号に変える組織)への血流が低下すること、騒音暴露歴が長くなることの二つの原因により内耳の有毛細胞が破壊されることで起こります。認知症予防にも補聴器は有用なことを別記事でまとめてみました参考にしてください。https://tomita-ent.com/practice/dementia/
言葉は聞こえるけど何を言っているかがわからない。
音の信号を電気信号に変える部分つまり内耳が損傷すると音への感度が低下します。小さな音が聞こえなくなることはもちろんのこと、大きくしても却ってうるさく聞こえて、ちょうどよく聞こえる音量の幅が狭くなります。内耳は高音担当部分が入り口にあり低い音であっても高音部分が反応するため、年齢とともに高音部分の細胞が早く損傷してきます。そのため周波数の高い音から聴力低下が始まります。サ行やカ行などの子音は高い周波数成分が多いため聞き取りづらくなり、佐藤さんと加藤さんなど名前を聞き間違いやすくなります。また音の無駄な響きを抑えることができなくなるため、ある一定の音量を超えた音が、より強く響いて歪んで聞こえ耳に刺激を感じるようになります。
音に対する感度が下がるだけでなく、聞こえる音の明瞭度が下がるわけです。音が鮮明に聞こえず、しゃべっている音はわかるが何を言っているか内容がわからないという状態になります。テレビ番組のアナウンサーのニュースの言葉はわかるが、ドラマやバラエティ番組では何を言っているかわからないということになります。音が伝わった脳では言葉を聞き分ける、分析する力が老化により低下するためより一層言葉がわからない状態となります。このように加齢性難聴ではテレビの音量を上げるといった対応だけでは、言葉の聞き取りは改善しません。ではどのように対応していけばよいのでしょうか
ゆっくりとハッキリと発声してもらえば理解できる
加齢性難聴の原因である内耳障害では、ただ単に小さな音が聞き取れなくなる他に、3つの現象が起こります。1つは、聴力が高音部分から低下するため周波数分解能が低下し、サ行、ハ行、カ行などの子音の聞き分けが困難になります。2つ目は時間分解能が低下し、連続する2つ以上の音素を正確に弁別できなくなり、早口のモゴモゴした声は聞き取りにくくなります。3つ目として、快適に聞こえる音量の範囲が狭くなり、大きな音は音割れして異常に響き、音の種類を区別できなります。
加齢性難聴の人に話しかけるとき、大きい声は必要ありません。やや近づいて耳元で面と向かって普通の音量で、早口でなくゆっくりと、一語一語ハッキリと発声することが重要です。一方、加齢性難聴の人が、他者から話しかけられて内容がわからなかった場合に『えっ何?』と聞き返してはいけません。『えっ何?』に対して、相手は最初より大声で、やや怒った感じで、早口になって返してくるでしょう。これではかえって聞き取りづらくなります。『あまり大声でなく、ゆっくりと短い文章で、もう一度お願いします』と言うようにしましょう。
『補聴器はピーピーうるさいばかりで全然ダメだわ。』
加齢性難聴には補聴器を使用します。補聴器は、拡声器や新聞広告にでるような集音器とは違います。低音から高音までの難聴の形(加齢性であれば高音障害が多い)にあわせて周波数単位で大きくする音を選べ、その増幅程度も調節できます。自分の難聴に合わせた調節が片方10万円程度のランク以上の補聴器でできるようになっています。
上手く補聴器を調節しても装着初期の3から6か月は脳のリハビリテーションが必要です。『補聴器はピーピーうるさいばかりで全然ダメだわ。』こんなお話をよく聞きます。難聴を放置した期間が長いと、その間聞かなくて済んでいたクーラーの音とか車の音などが、補聴器により聞こえてくるのですから、うるさくて当たり前です。
難聴の脳についての解説記事も参考にしてください。https://tomita-ent.com/practice/hearingaid/
難聴に慣れてしまった脳を、補聴器で聞き取る音に馴れさせれば解消されます。補聴器を本来聞こえる聴力の70%以上の出力で、朝起きてから夜寝るまでずっと1人の時も装着し続けることが大事になります。さらに積極的に会話に参加し、音読や朗唱などの練習、聞き取りの書き取りなどを通じてことばに関するトレーニングをしましょう。そうすれば必ず脳が変わり補聴器に慣れます。聞く力のわずかな衰えを感じたら早めに耳鼻咽喉科医へ相談に来てください。補聴器を装着するのが早ければ、脳のトレーニングの時間も短縮されます。
コメント
コメント一覧 (2件)
眼鏡だと、眼科の処方箋を持って行けば、眼鏡店で眼鏡を作ってもらえるけれど、
補聴器の場合、耳鼻科の処方箋を持って行けば、補聴器を選択してもらえるのですか?
耳鼻科から決まった処方箋というものはありません。補聴器屋さんへこうした方が良いと依頼をすることはあります。