薬で耳鳴りは治らないと言われて絶望しているあなたへ。わたしは耳鳴りの研究のために海外で研鑽した経験もある現役耳鼻科医の富田雅彦です。耳鳴りの原因について分かりやすく解説します。
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耳の聞こえが悪くなっているから、耳鳴りは脳で感じています
耳鳴りとは、音源がないのに感じる異常な音感覚です。慢性の持続的な非拍動性の耳鳴りを感じている人の割合は約1割から1.5割です。そのうちの23パーセントが、耳鳴りで苦しんで生活に支障が出ているという報告があります。
基本的に耳鳴りがしている人は何かしらの難聴を持っていることが多いです。加齢により耳の鼓膜の奥の内耳の細胞が損傷し、音の振動を電気信号に変えられなくなります。聞こえにくい高さの音の(周波数帯)の電気信号が脳まで伝わらないため、脳ではその電気信号を拾うために細胞の電気活動が活発になります。これが耳鳴りの正体、『難聴の脳です』。脳で耳鳴りがなっています。
高音の難聴から始まる人が多いから、耳鳴りはキーンという高い音がする
年を取ることによる難聴は高い音から障害されます。加齢性難聴の脳は高い音の電気信号が届いていませんので、高い音担当の脳細胞の電気活動が活発になっています。そのため、高い音の耳鳴りがするのです。一般的に難聴のある音の高さに似た高さの音の耳鳴りがする傾向にあります。高い音が聞こえにくい難聴の人ならば、キーンとかいう高い音、逆に低い音が聞こえにくい人は、ブーンというようなモーターのような音がすると訴えられます。
耳鳴りをゼロにする治療はないイコール若返りの薬はない
難聴が改善すれば、耳鳴りが小さくなると考えられます。脳に全ての音の高さの電気信号が満遍なく入ってくれば、脳が部分的に電気活動を活発にする必要がないからです。実際に突然耳が聞こえなくなる突発性難聴の方は、耳鳴りも出現します。この時、治療により突発性難聴が改善すると、病気になった時に出現した耳鳴りが消失するのです。
加齢性難聴は、突発性難聴のように治療で改善することはありません。年齢に伴う耳鳴りを改善しゼロにする薬は、残念ながら存在しません。若返りの薬は存在しないからです。
耳鳴りを気にするなと言われても、どうしても気になる人は苦痛のループに陥っている
聞こえにくい音の電気信号が到達していない難聴の脳部分では、脳の細胞の電気活動が増加しています。寝床に入って寝るまでの時間では、脳の全体の活動が少なくなります。この時、難聴の脳の部分の電気活動が、活動していない周り(全体)から相対的に際立ってしまうのです。このため、寝る前に特に耳鳴りを強く感じやすくなります。
日中何か好きな事を行っている時は、脳が活発に運動するので難聴の脳の部分の電気活動は周りから見ると小さくなります。好きなことをやってる時はあまり耳鳴りが気にならない訳です。
耳鳴りが気になっている人は、脳の全体が活動している時でも、難聴の脳の電気信号が周りより際立って活動しているのです。気にすると余計気になってくる、忘れようと思っても気になってしまう。これは皆さんが小学校の頃の漢字の書き取り練習のように、忘れられないぐらい耳鳴りが気になるという事実と記憶が結びつき、更に苦痛だと感じる負のネットワークに強く結びついているのです。耳鳴りの電気信号が苦痛を感じる脳の中心部と強く結びついているのです。
耳鳴りが聴覚中枢の脳細胞の異常な興奮と考えると耳鳴りをゼロにするのは難しいです。治療の目標は、日常生活で困っていることを解消することです。耳鳴りに困ることが少なくなる→耳鳴りに注意が向かなくなる→耳鳴りを苦痛と感じることが減るからです。漢字の書き取り練習で覚えたものも全く漢字を使わなければ、そのうち忘れられるはずです。
耳鳴りによって困っていることを取り除くのが治療
耳鳴りで困ってることを自分から明確にしてみましょう。耳鳴りその物にに皆さん注意が向いてしまっています。そこから進んで考え、耳鳴りで眠れない、人と話がしづらい、頭が痛くなる、このような耳鳴りがあって困っていることに目を向ける、気づくことが大事になります。医師から耳鳴りで困っていることに応じた解決策を提案してもらい、それを実践し困っていることを和らげましょう。これが耳鼻科で行う耳鳴り治療の最終目標です。
寝られなければ睡眠薬、話が聞き取りづらければ補聴器、音が常に気になるんであれば、環境音やBGMを流しながら生活するなどの解決策を提示してもらいましょう。音響療法といって、耳鳴りに似た高さの音を耳鳴りよりやや小さな音でサウンドジェネレーターという補聴器みたいなもので、常に聞かせる方法もあります。希望される場合は大学病院など専門施設でしかやっていませんが、かかりつけの医師に相談してみてください。
耳鳴りの原因の難聴の脳を変化させるのに補聴器も有用です
耳鳴りのせいで、人の話し声などが聞き取りづらいという人がいます。これは耳鳴りのせいではなく、実は難聴のせいで聞き取りづらいのです。聞き取りずらさには補聴器が効果があります。難聴の脳が改善し、耳鳴りが気にならなくなる効果もあります。2019年に日本聴覚医学会から耳鳴り診療ガイドラインというものが提示されています。この中でも難聴がある耳鳴りには補聴器が推奨されています。
参考文献
アメリカ耳鼻咽喉科学会、耳鳴りガイドライン2014 http://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/0194599814545325
日本聴覚医学会、耳鳴り診療ガイドライン2019
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/122/7/122_999_1/_pdf
コメント
コメント一覧 (3件)
市販薬「ナリピタン」は、耳鳴りに有効( ? _ ? )
「ナリピタン」の外箱の説明書きを見て、
「これは抗精神薬?向精神薬?」と疑問に想いました。
耳鳴りは、聴こえなくなった音域を脳が捜して脳が誤動作するためだとか〜?
その脳の興奮を抑えるのが、ナリピタン?
医師から見て、「ナリピタン」の評価は?
ナリピタンは当帰芍薬散でして。更年期とかに出すクスリです。耳鳴りにはまったく使うことはないので、効果は限定的と思います。
脳が聴こえ無い音域の音を聴こうとして、音を探して興奮する。
その状態が耳鳴りだから、その興奮をおさえて、耳鳴りを改善しようとする薬ではないのですね!